2021年4月、ネパールのカトマンズ郊外、ロックダウン直前で外出許可時間が限られる中、パパは朝早くからワンコ達のエサやりに出かけました。
人通りが減ると、ワンコ達に食べ物をくれる人がいなくなるのです。
バスパークにマリアや後脚を骨折しているダディはいましたが、彼らの娘オレオの姿がありません。
「じゃあオレオが子育てした場所を探してみよう」
その途中でパパは水タンクの横の細い通り道のずっと向こうに目がいきました。
「あれ?なにか可愛い子達がいる」
そっと近づいてみると白黒茶色の3匹の子犬でした。
耳が茶色い白い子と茶色い子はとても怖がりでしたが、チビの子供の「杏」に似た黒い子は好奇心が強いようです。
しかし、いつもその周辺の犬達の世話を手伝ってくれる若者もまだ撫でさせてもらえません。
数日後、また短い外出許可時間を利用して子犬達の様子を見に行きました。
やはり警戒していましたが、お腹いっぱいエサを食べさせてあげられました。
しかし、一番用心深い真っ黒の母犬だけは食べずに姿を消してしまいました。
子犬達は屋根のある廃材置き場のような所に住んでいるようです。
「大きな子達とも仲良く暮しているんだ!神社組のワンコは優しいね」
こうして私達は、その野良犬家族にも名前を付けてお世話を始めました。
お母さんはビター、茶色い子はキャラメル、黒い子はブラック、そして茶色い耳の白い子は登場の時から音響メーカー「VICTOR」のマスコットに似ているとチャットが賑わい、ビクターになりました。
月日が経ちビクターも成長しましたが、相変わらず怖がりで、パパ達にはそれ程懐いてくれませんでした。
2021年の8月には別の2匹と共にマダニによるエールリキア症になりましたが、注射や投薬でなんとか乗り切ることが出来ました。
パパに抱えられた怖がりのビクターは緊張で硬直していました。
その頃はいつも八百屋の倉庫の奥のカゴにいて、美味しいジャーキーにさえ顔を背ける用心深さでした。
そして2021年11月、いつも野良犬達の世話を手伝ってくれる優しい八百屋さんの女性から私達に緊急の電話がかかってきました。
「発情期だから他の地域から来た雄犬20匹くらいに、まだ生後7ヶ月位なのにビクターが追いかけ回されている!」
(以前は別の場所にいた雄犬「ハチ」にマウントされのているのも動画内で目撃されています)
ビクターはその女性には気を許していたので、彼女に同伴してもらって急いでビクターを獣医に運び、すぐに避妊手術をしてもらいました。
脾臓が腫れていたり、皮膚病があることもわかりました。
「退院したら治るまでうちの柵の中に入れてあげるから、早く良くなるんだよ」
彼女は他の犬にもいつもそうしてくれるとても親切な協力者です。
しかし2ヶ月後、また事件がおきました。
「ビクターが子供を襲うようになった!」
原因は不明ですが、女性や子供を威嚇したり噛もうとしたことが何度かあったそうなのです。
八百屋さんの女性はいつも野良犬達の世話をしていたので、店のお客さんにビクターの苦情を厳しく言われ、辛い目に合っていました。
ネパールでは問題を起こした犬猫達は住民に殺鼠剤などで簡単に毒殺されてしまいます。
私達はビクターに何かされる前に、取り敢えずいつもの獣医さんに預けて大急ぎで里親を探しました。
ネパール最大のフリマサイトにも募集を載せましたが、子犬がそこら中にいる国でわざわざ問題を抱える成犬を保護する人は滅多にいません。
しかし色んなお店で犬が欲しい人がいないか聞いていた時、買い物に来ていたおばあちゃんが「保護してあげよう」と言ってくれたのです。
彼女は4人家族で飼い犬を亡くしたばかりだったそうです。
こうしてビクターに、ようやく親切な里親が見つかったのです。
しかしビクターは、その家に行ってからずっと吠えていたり、頑丈な鎖を噛みちぎっては何度も逃げてしまいました。
そこでいつもの獣医さんに相談したところ、ケージに入れた方がいいと言われたので、直ぐに買って届けに行きました。
結果は…ダメでした。
その家族は、近所の人から「もううるさいから逃して放置しろ」と言われてもそうしませんでした。
そのようになんとか頑張ってくれていたのですが、その日だけでも3度も脱走されて、「流石にもう保護できない」と言われてしまったのです。
私達は万策尽きて八方塞がりでしたが、それを見た日本人ヘルパーが「他に方法が無いならビクターを預かる」と言って、その場で家に許可をもらう電話をしてくれたのです。
彼女は少し前から万一に備えて、預かる可能性について家族にそれとなく話してくれていたそうです。
彼女の嫁ぎ先には既に犬がいましたし、難しい決断だったと思います。
そこは広い屋上がある立派な家で、家族みんなが優しくて、ビクターを受け入れて可愛がってくれました。
初めは3人がかりで散歩させたり、トイレの躾をしたり、吠えてうるさいと苦情を言われたり大変でした。
その家の飼い犬タイガーには最初は威嚇され、ヘルパーがビクターを可愛がるとやきもちも焼かれました。
しかし2匹は徐々に慣れて、最後にはとても仲良くなりました。
気長な努力のおかげで、ビクターにしては珍しく野良犬の時から彼女に心を開いていたので私達は安心して預けられました。
毎日散歩に行ったり、シャンプーしてもらったり、警戒心の強いビクターもその家族に心を開き、表情も豊かになって私達は本当に喜びました。
お椀をくわえる姿なんて小さい時と同じですね。
それなのにビクターはまたその家を何度か脱走したのです。
ガソリンスタンドのストライキで、ヘルパーがバイクにガソリンを入れるだけで3時間もかかってしまい、その上そこからダディとオレオの入院などで12時間も留守にした時には、脱走して隣の家の鶏を追いかけ回して噛んだり、本当に目が離せない子だったのです。
ライブ配信中に3階ベランダの塀の上に飛び乗った時には、見ていたみんなの心臓が口から飛び出そうになりました。
でも小さい時から柵のない屋根の上を走り回っていたビクターですから大丈夫なはずですが、私たちはそうは思えませんでした。
こうしてせっかくタイガーと仲良しになったのに残念でしたが、より自由に走り回れるように、完成した私達の避難所に移すことになりました。
避難所には既にダディ一家がいましたが、幸い顔見知りでした。
ビクターがいた神社にはビクターの祖母のシロちゃんも含め穏やかな子ばかりで、近くのバスパークからダディ達も来ていたのです。
「みんな迎え入れてくれるかなぁ」
入所前のトライアルでは、ヘルパー達が1匹ずつの鎖を持つ万全の体制でビクターを迎えましたが、争いは起きませんでした。
怖がりビクターの順位は避難所では最下位でしたが、自分から服従のポーズで積極的にみんなに近づき、なんとか直ぐに馴染むことが出来ました。
遊び相手がいなかった若いオレオは、一緒に走ったりおもちゃで遊ぶ友達が出来て嬉しそうでした。
正式入所の日、道中の車内でヘルパーのシャツを破いてしまうくらい興奮していましたが、みんなに歓迎され上手くやっていけそうで私達はホッとしました。
ただ、大好きなヘルパーがビクターを可愛がるとマリアやダディまでもがヤキモチで怒ってビクターを攻撃しました。
病気で入所したクレンをビクターが威嚇した時には、ダディとマリアに激しく叱られて追いまわされ、暫く立ち直れず隅で落ち込んでヘルパー達に慰められていました。
そんなまだ若いビクターをずっと避難所に置くには、費用面などで無理がありましたが、子供を攻撃するビクターを私達が監視できない野良犬に戻すのはとても危険でした。
そこで昨年2021年秋に帰国したパパ、ママの2人がこの11月末にネパールに行って、マダニによる病気を繰り返し野良犬として暮らせないオレオと一緒にビクターも日本に連れて来ることにしました。
その後は「野良犬ふれあい広場」のメンバーが里親になってくれます。
日本に連れて来るには、マイクロチップやフィラリア検査や狂犬病予防注射や血清検査をして各種証明書を得た上で、コロナ禍で日本への航空機もあまりない中から犬を安全に運べる便を探して、頑丈なクレートも自分で用意しなければなりません。
コロナで空路を絶たれて血清を海外の研究所に送るだけでもひと苦労でした。
勿論多額の費用もかかりますが、みんなが頑張って沢山支援してくれたので、なんとか準備は整いました。
私達夫婦は昨年マロを連れ帰った経験もあるので、きっと大丈夫!
人一倍警戒心が強くて繊細なビクターが、遠路はるばる飛行機で日本に運ばれ、会ったこともない里親さんとどう暮らしていくのか、またご報告出来る時をみんなで楽しみにお待ちくださいね。
どうか無事到着して日本が気に入りますように!
YouTube動画
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